身體知(身体知)3

ミラーニューロンと「複素的身体性論」

尾崎 健次

 有効打突は剣の速さだけでは通用しない。こちらの剣の通り道が塞がれていてはどうしようもない。いかに相手の剣の守りを解くか?相手の読みを外させるか?それは心理作戦にも掛かっている。

 脳のコントロールを有効にするには、脳の作用、法則と言うものを知るに如くはない。対人コミュニケーションにおいてはミラーニューロン(脳の鏡作用、ものまね細胞、)というものがある。他人の行為を鏡に映した様に表現することである。相手が面に来たら、こちらも面に行ってしまう。つばぜり合いから引き面に来られると、こちらも手元が上がってしまう。つまり、反射的に相手の動きに釣られてしまうのである。

 しかし、これは平常時の、互いに疑いや用心のない、単純な場合である。試合のように、全力、全霊で相手を凌ごうと言う場合、そんな簡単に通用するものではない。高ぶった、敵対的心理状態の中で、こちらの作用に素直に反応するような関係を作らなければならない。つまり、相手と周波数が合い、交信ができるという状態にすることである。これが複素的身体性論(武道家・内田樹氏『私の身体は頭がいい』より)と言うものであり、視覚や竹刀との接触によって、相手と「複素的=共身体」と言うものを構築することである。この関係により、ミラーニューロンは活性化し、その原理を知る者の共身体のコントロールを容易にする。

 立ち合いで、必死に打とう、守ろうとする荒々しい動きの中で、いかに共身体を構築するか?まるで暴れ回る荒馬を乗りこなすようなものである。剣道は手綱の代わりに、剣先と間合いの攻防がある。一方的な打突だけでは通用しない。相手に助けてもらわなければ…。私の長年の苦労もここにありました。段の講習会でのO先生の助言、ありがとうございました。

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