身體知(身体知)2

呼吸とバランス

尾崎 健次

 剣道の有効打突の決め手は打突のタイミングと冴え(速さと強さ)であることは言うまでもない。ここだと言うときの「瞬間の打突」、「無心の打ち」、「反射の打ち」、「石火の打ち」、「それ、剣は瞬速、心気力の一致」(千葉周作)と言われるように、速さが命である。では、その速さはどこから生み出されるのか?強い筋力、鍛え抜いた筋肉?それも否定できない。しかし、それよりもスムーズな体重移動(バランス、軸)とそれを促す集中力にあるのではないか?その集中力を支えるのが深く、静かな呼吸である。深い呼吸は精神と連動し、体の緊張を取り除き、全身の力を集めて瞬時の最大出力を生み出す。

 しかし、有効打突の決め手は速さだけではない。むしろ、打突の機会(タイミング)の方が重要である。どの機会にどこを打つべきか?それは当然のこと、相手の守りの解けたところ、隙、つまりこちらの刀の通り道が保障されている時である。そのためには相手に錯覚を起こさせる必要がある。(騙し、引っかけ、釣る)総称して、それが「攻め」と言うものだろう。行くと見せかけ、行かない。行かないと見せかけ、行く。小手と見せかけ、面。面と見せかけ、小手、胴、突き。全て、相手の読みを外さなければ、こちらの技は確実に通用しない。技の読み合いで絶対優位な立場は何か?それはそのような技の読み合い(交信)において、絶えず、自分が信号の発信者になり、逆に、相手がこちらの受信者になると言う、先手後手の関係と言うものを作ることである。「先手必勝」この言葉は勝負の世界の大原則である。

 この「先手に立つ」タイミングを「間」と呼び、「呼吸」と言うのも、息が詰まるような鋭く、微妙な「間(間合い)」の攻防の中で要求される、深く、静かな呼吸に関係があるからだろう。呼吸が乱れていては瞬速は適わない。正しい呼吸は腰を据えた正しい姿勢(バランス)から生まれるのである。

前のページ | 次のページ

↑ ページの先頭へ